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【動画・参加記】「法と社会から考える:ロシアのウクライナ侵攻」(2022.6.21)が開催されました。

2022.07.22

イベント

2022年6月21日(火)、実社会のための共創研究セミナー「法と社会から考える:ロシアのウクライナ侵攻」が、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター境界研究ユニット(UBRJ)と人間文化研究機構(NIHU)プロジェクト「東ユーラシア研究」北海道大学拠点の共催で、オンライン開催された。なお、このセミナーは、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターのプロジェクト「国際的な生存戦略研究プラットフォームの構築」の一環としても、位置づけられている。
(セミナーの模様を動画で視聴することができます。こちらをクリックしてください。

山田哲也氏(南山大学)は、「国際法からみたロシアのウクライナ侵攻」という題目で、国際法を専門とする立場から、ウクライナ侵攻を論じた。専門知からの冷静な分析は、戦況の目まぐるしい変化に翻弄される時事解説とは一線を画し、聞きごたえのある貴重なものだった。ロシアの軍事行動について、大別して3つの論点、つまり1.「国際法上、法的正当性があるのか」、2.「国際法上、どのように認定されるのか」、3.「戦争犯罪として罪を裁くことができるのか」という論点から、それぞれ解説を行なった。ロシアが一貫して「戦争」や「武力行使」ではなく、「特別軍事作戦」という表現をしていることに注目し、第1の論点では、武力の行使および武力による威嚇という国連憲章が禁止する行動の例外にあたる、安保理による集団安全保障と個別的または集団的自衛権の行使、さらに人道的干渉の観点から、ロシアの行動の国際法上における正当性の有無を論じた。次に、第2の論点について、誰が平和に対する脅威、平和の破壊、侵略行為を認定するのかというプロセスを説明し、今回のロシアの行動と各国の対応の法的位置づけを行なった。さらに、第3の論点について、国際刑事裁判所での逮捕や裁判の難しさについて、解説した。

岩橋誠氏(NPO法人POSSE)は、難民支援の現場の視点から、「日本における難民支援に関する現状と課題」という報告を行なった。岩橋氏は、NPO法人POSSEで技能実習生など外国人労働者やクルド人などの難民支援に携わる一方で、翻訳家としての肩書も持つ(キア・ミルバーン著、斎藤幸平・岩橋誠・萩田朔太郎訳『ジェネレーション・レフト』堀之内出版、2021年)。報告では、POSSEの取り組みや、日本における難民認定の現状が語られるとともに、ウクライナ避難民の支援について、日本政府による限定的支援と民間頼みの支援状況について解説が行われた。他方、今回のウクライナ避難民と、彼ら以外の日本で支援を必要とする人々とのあいだの支援体制の非対称性の問題を取り上げ、ミャンマーやアフガニスタンなどからの難民、とりわけ、クルド人と彼らの難民申請の置かれた厳しい現状について説明した。岩橋氏は、特に難民申請中の日本居住者における生存権保障の欠如を問題として取り上げ、その改善の必要性を説いた。

「難民」という語のもつ問題性については、難民審参与員を10年近く務められている山田氏からも解説があった。氏によれば、今回、日本政府がウクライナ人支援に使用している「避難民」という語は、「asylum seeker(自国を逃れて庇護や難民としての地位を求める人々)」の訳と考えられ、欧米各国は法的に保護すべき人を、1951年の難民条約上の「難民」と、国内法上の「asylum seeker」をひっくるめて「refugee」と位置付けている可能性が高く、それを「難民」と機械的に日本語に訳すると、難民をめぐる理解のずれを生み出してしまう弊害があるため、概念の弁別の必要性にも注意を喚起した。

セミナーでは、ほかに、2008年の南オセチア紛争、2014年のウクライナ東部紛争、さらにはコソボ紛争に対する国際法上の理解、難民条約の改正の難しさ、移動先での人権保障体制のあり方などについて、話し合われた。将来起こりうる台湾有事や朝鮮半島有事と難民受け入れのことを考えると、いま、日本は、他人事ではなく、自分事として真剣に難民問題と向き合う必要があるのではないかという、最後の提起が強く印象に残った。

井上岳彦
人間文化研究機構人間文化研究創発センター研究員
北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター特任助教

法と社会から考えるロシアのウクライナ侵攻